ウソで塗り固められた自分の人生。【アイドルとIT社長と平凡な少年】
僕にはお兄ちゃんがいる。
お兄ちゃんとは言っても
本当のお兄ちゃんではなく
子供の頃から知り合いの
近所に住んでいた
お兄ちゃんだ。
小さい頃から
歳が7つ離れた
そのお兄ちゃんに
僕はよく遊んでもらっていた。
そして
色々な事を教えてもらった。
今思えば
そのお兄ちゃんと
出会っていなければ
僕の現在は大きく変わって
いただろうと思う。
尊敬とは
ちょっと違う気もするが
ずっと憧れていた。
お兄ちゃんは
少し変わった性格
というか
周りの人達とは
ちょっと違う感じだったので
大人達から
嫌われていた気がするが
僕は大好きだった。
思えば初めて会った時から
衝撃的だった。
僕は友達と公園で
ブランコで遊んでいた。
立ちながら勢いをつけて
どちらが自分の靴を
より遠くに飛ばせるか
競争をしていた。
友達よりも
僕の靴が遠くに飛んでいき
その靴の先に
お兄ちゃんがいた。
お兄ちゃんは大きな犬にまたがっていて
頭には白いハチマキをしていて
木の棒を手にしていた。
近づいたとき
ハチマキに手書きの汚い字の
英語が気になったが
それ以上に
人間が犬に乗っているという
事実に
戸惑ってしまったのをすごく覚えている。
正直少し、ゾゾっとした。
ウソで塗り固められた自分の人生。【アイドルとIT社長と平凡な少年】
僕とお兄ちゃんは
それからよく遊ぶようになった。
年齢が7つも離れていると
大体の両親は怪訝な顔をすると思うが
ウチの親は二人とも
わりと奔放主義だったので
特に気にしてもいないようだった。
お兄ちゃんには
自由
という言葉がピッタリだと思った。
駄菓子屋で
わたぱちを食べて
「悪くねえ」
とよく言っていた。
赤い液体に浸かっているすももを食べるときには
「キマるわ」
と言った。
僕はうまい棒が好きだったが
お兄ちゃんは
「あのネズミはヤバい」
といって食べなかったので
僕も次第に食べなくなっていった。
あのキャラクターがネズミ色だったからだと思うが
その質問には
お兄ちゃんはなぜか答えてはくれなかった。
ウソで塗り固められた自分の人生。
時が経つにつれ
お兄ちゃんの魅力に惹かれていく速度が増し
同時に
僕自身も周りに煙たがられているように
感じる回数が多くなった。
お兄ちゃんは自分の考えと違うものには
あまり興味を示さずに
自分の信じる道を
突き進むタイプだった。
ある日
ドラゴンボールを探すと言って
勝手に飛びだした時は
隣の駅で警察に保護され
お兄ちゃんは自分の親父に殴られて
1日でやめていた。
TVの占いコーナーが
好きみたいで
星座や血液型の
ラッキーアイテムは
必ず身に着けたり
行動にうつした。
星座と血液型では
必ず良い方を選んだ。
これは意外と続き
1年近くもやっていたが
ある日のラッキーアイテムとラッキースポットが
もつ鍋 ハワイ
だったときに
「もう占いには頼るな・・ってことかよ」
と涙したのを覚えている。
当時の高校生には
海外に自力で行く術も
味覚も
備わってはいないようだった。
でも僕は
以前のラッキーアイテムとスポットが
人魚の着ぐるみ
築地
だったときの方が
ハードルが高い気がした。
人魚からは
無理やり足が飛び出ていたのを思い出し
僕は笑った。
それとお兄ちゃんは
影響を受けやすい。
ずっと筋肉トレーニングを
していたので
周りの同学年位の人よりも
倍近く体が大きい。
これはいつだったか
僕に話してくれた
子供の頃に観た映画の影響だろうが
タイトルは忘れてしまった。
お兄ちゃんの武器が
木の棒から定規
そして竹刀に変わった頃
町ではお兄ちゃんを見ても
ほとんどの人が驚かなくなっていた。
その位に有名になっていたのだ。
そんな時
お兄ちゃんは
僕に武士道を熱弁しだした。
二人でちょんまげにしようと提案してきた。
僕は恥ずかしいからと断ると
お兄ちゃんは
若干寂しそうにしてはいたが
面白そうなので
一緒に床屋さんに向かった。
マイク真木似の床屋の人が
困った顔をしながら
やめないかと説得しているうちに
お兄ちゃんの母親が来て
僕達はお兄ちゃんの家に連れ戻された。
きっとマイク真木似がこっそり連絡したのだと思う。
その事件から数日後
お兄ちゃんとよく遊ぶ公園に行くと
金髪の怖そうな女の人とお兄ちゃんは一緒にいた。
ウソで塗り固められた自分の人生。【アイドルとIT社長と平凡な少年】
彼女だ
と僕に言った。
お兄ちゃんはすぐに新しい友達が出来ても
すぐにその人とは遊ばなくなるので
今回もそうかなとは思ったのだが
女の人といるのは初めて見たので
なぜか僕は緊張した。
金髪の女の人は制服を着ていたので
高校生かな
と思った。
僕はその女の人とも仲良くなり
よく一緒に遊んでもらっていた。
しかし1か月後
女の人はお兄ちゃんと遊ばなくなったので
僕は会えなくなった。
少し寂しかった。
どうしたの
と訊くと
お兄ちゃんは
「こんなもんさ」
と言った。
そして僕が中学生になった頃
お兄ちゃんは引越しのバイトを始めた。
しかし1か月も経つと
そのバイトも辞め
お兄ちゃんはファミレスで
ハンバーグを食べさせてくれながら
「お前、侍にならないか?」
と僕に言った。
一瞬迷ったが
断った。
お兄ちゃんって同い年の友達がいないのか
と訊いた。
お兄ちゃんは
友とは自然に出来るものだ
と呟いた。
会計に向かうとき
お兄ちゃんの座っていた席には
ノストラダムスの大予言
侍のススメ
という二冊の本の姿があった。
その数日後から
お兄ちゃんを急に町で見かけなくなり
僕はお兄ちゃんの家を訪ねると
お兄ちゃんの母親から
1枚の手紙を見せてもらった。
侍になる
とだけ書いてあった。
ウソで塗り固められた自分の人生。【アイドルとIT社長と平凡な少年】まとめ
その後
僕はクラスなどで
友達が出来て
サッカー部に入り
いわゆる普通の人生
みたいなものが始まった。
お兄ちゃんから1度だけ
写真が数枚送られてきたことがある。
髪は長くてボサボサで
髭も生えていた。
山奥の小屋
欠けた茶碗や
わらじ。
中には
お兄ちゃんが
日本刀を持って
かまえている写真が1枚あった。
筋肉は前よりも大きくなっていた。
それはまさしく侍みたいだった。
それから数年
月日が流れ
ある日
何気なくTVを眺めていると
お兄ちゃんの元彼女のあの人が
アイドルとしてデビューしていた。
全く同じ名前で活動していたのと
声ですぐに分かった。
ゴマキちゃんはその数年後
引退して
結婚して
不倫して
メディアを賑わせる事となる。
そしてさらに十数年後のニュースには
心から驚かされた。
僕は固まってしまった。
現代の革命児
と紹介されていたのは
お兄ちゃんだった。
フラッシュバックして
初めて会った時の記憶が
一気に蘇った。
あの初対面の時
ハチマキに書かれていた
汚い字のアルファベットが
今TVにそのまま映っている。
僕がサッカー選手を引退して
パウンドケーキ屋さんを始まるまでに
一体何があったのだろう。
僕は引き出しから
1枚の侍に似た男の写真を取り出した。
TVの中では
ZOZOTOWN
と書かれた
大きな看板を背に
綺麗なスーツを着こなした
お兄ちゃんが笑っていた。
大きな筋肉と引き換えに
手にした武器は
日本刀からメディアに変わっていた。
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